ロイアイ(ネンドロイド)

【FA】想い出「初恋」/ 幼馴染「約束」シリーズ

ロイアイSS。エピソード集(その1)です。

馴れ初めSS

俺が彼女と初めて逢ったのは、彼女の父親であり、我が師であるベルトルド・ホークアイ氏の弟子となるために師の家を訪れた時だった。
俺が12歳、彼女が7歳のころのことだ。

一見「幽霊屋敷」のように思える師の家は、昼間見てもオカルトな雰囲気を醸し出しており、ドアをノックするのに若干の躊躇いを覚えたが、ノックをして一番に顔を出した少女の姿に驚いた。それは驚くほどに、この屋敷と彼女の雰囲気がミスマッチだったからだが、彼女の可愛らしい佇まいに、心の底から安堵を覚えたのも事実だった。

「どちらさまですか? …あの、貴方、どなた?」

だが彼女にしてみれば、自分の顔を見た途端に胸を撫で下ろし、一言も話さない見知らぬ少年を訝しむのも無理はないと思うが、訪問者を前に無表情のままドアを閉めようとするのは、如何なものだろうか…。ともかくお互いの第一印象は、あまり良くなかったように思える。

「あ、ちょっと待って。閉めないで!!
 ベルトルド・ホークアイ氏はご在宅ですか?」

「父のお知り合い…なんですか?
 あの、どういったご用件でしょうか?」

「ロイ・マスタングと申します。ホークアイ先生の著書を拝読し感銘をうけました。
 できましたら、弟子にしていただけないか…と、訪ねてまいりました。
 これは紹介状です。先生にお伝えいただけませんか?」

「紹介状…だと?!」

突然、少女の後ろから、気配もなく現れた幽霊のような男が、紹介状の裏書きを認めると「入りなさい」と言って、屋敷の中に戻っていった。
その男こそが師匠その人だったのだが、実に似ていない父娘だな…というのが、最初の感想だった。

彼女の父に師事することが叶い、住み込みで錬金術を学べるようになったものの、人見知りの彼女と打ち解けるまでには少々時間を要した。

「リザ、弟子をとることにした。
 今日からうちで暮らすことになるロイ・マスタング君だ。部屋の用意をしてやってくれ。」

「ロイ・マスタングです。よろしくお嬢さん。」

「ロイ、私の娘のリザだ。妻は数年前に亡くなっているのでな。家のことは娘がしてくれている。」

「リザ・ホークアイです。あの、リザで良いですよ。
 よろしくお願いします、マスタングさん。」

そう挨拶をしたきり、あまり会話らしい会話をすることはなかった。
彼女はどうも2階の書斎や師匠の部屋の前で音をたてたり、話しかけたりすることをしてはいけない…と思っているように見える。

また彼女は小学校に通っており、自分は住み込むことをキッカケに師の家が圏内の中等学校へ編入したため、平日の昼間はほとんど顔を合わせることがなく、俺自身、休校日は師の部屋か書斎にこもって、師から出された課題に取り組んでいたのも原因だろう。

「すごいな…。これ全部リザが作ったのかい?」テーブルの上に並ぶ食事を見て声をかけると、リザは申し訳なさそうな表情で「お口に合うかどうか分からないですが…」とだけ答えてくれた。

その後、食事時も師が寡黙な所為か、彼女も寡黙なようで、ほとんど俺が一人で話しているような食卓で、最初のころは3人揃っての食事が苦手に感じていた。それが一変したのは、いつのことだったか…。


突然急用が入ったと慌てて出掛けた師匠が、その日のうちに帰る予定だった列車が事故で身動きとれなくなり、数日帰れなかったことがあった。いつもだったら就寝している時間なのに、リザの部屋から光が漏れていることに気付き、俺はドアを軽くノックし声をかける。

「リザ、まだ起きているのか? もしかして眠れないのかい?」

リザからの返事はない、不思議に思い「入るよ」と声をかけドアを開けると、リザが慌てて目を擦っているのに気が付いた。

「どうしたの?リザ…泣いていたのか?
 怖い夢でも見たのかい?俺で良ければ、話してごらん。」

リザは、目にいっぱいの涙を浮かべて、ロイの服の裾を握りしめる。

「お父さん…帰ってきますよね?」

あまりに必死な目で見つめてくる問いかけに、どうしてそういう心配になるんだ?と思いつつ

「師匠からの電話では『列車の線路の復旧に数日かかりそうだが、復旧次第すぐ戻る』って言ってたじゃないか…。大丈夫だよ。」

そう答え、俯いてしまったリザの顔を覗き込んで笑いかける。

「お母さんが死んだ時の夢を見てしまって…。最近見たことなかったのに…。急に不安になってしまって…。
 …変ですよね、私。ごめんなさい、マスタングさん。こんな時間に…。もう大丈夫です。…あの、ゆっくり休んでください。」

バツ悪そうに、いまだ不安げな眼差しで言い募るリザをとっさに抱き寄せて落ち着かせようとした。

「あ、あの…。マスタングさん…?」

「大丈夫だ。師匠はお元気だ。そのうちに列車も復旧する、そうすればすぐに戻られるさ。
 リザが心配するようなことにはなってないよ、安心していい。」

俺の言葉に、小さな腕を俺の背へ伸ばし、ギュウッと服を握りしめてくるリザのいじらしさに俺の胸は締め付けられるような切なさを感じたのを覚えている。ただこの時感じた想いが恋愛感情だったのか?と聞かれると定かではない。
ただ、この娘にこれ以上寂しい想いはさせたくない、傍にいて安心させてやりたい…そんな庇護欲のようなものが掻き立てられていた。

おそらくその日を堺にして、俺とリザはよく会話をするようになった気がする。
今までは、朝の挨拶や食事の挨拶程度だった会話が、そこに1つ2つと別の話題が加わるようになり、少しずつ笑顔をみせてくれるようになり、それは純粋に俺の心にときめきのような喜びを齎してくれていた。


俺が14歳、リザが10歳になった頃には、本物の兄妹のような関係になれていたと思う。

「リザ、買い物かい? 荷物持ちが必要だろう、一緒に行こう。」

「はい、マスタングさん。でもお勉強の方は良いのですか?」

「実はちょっと煮詰まっててね…。気分転換さ!」

「じゃあお願いします。今日はちょっと荷物が多くなりそうだったので、助かります。」

とまあ、二人で一緒に仲良く買い出しに出掛けたり、学校の帰り道に見かければ、何方からともなく声を掛け一緒に帰るようになったり、お互いに学校での出来事などを話したりするような関係になっていた。

「リザ、今帰りかい? いつもより少し遅くないか?」

「今週は掃除当番なんです。その後、ちょっと同じクラスの子達とお話していて遅くなってしまったんです。
 スミマセン、家に着いたら、すぐにお夕飯作りますね。」

「謝ることじゃないさ、友達は大切だよ。よし、じゃあ俺も何か手伝うよ。」

そんなちょっとした彼女とのやりとりが、穏やかで暖かくて、幸せだな〜と感じるようになってきていた。

俺はこちらの学校に編入してから、自分で言うのも何だが、学校一のモテ男で女の子に不自由したことがなく、恋人的な存在のガールフレンドも何人か居たが、錬金術の勉強が忙しく休日に出掛けられないのが理由で、別れたりを繰り返し、恋人をとっかえひっかえしている…という噂がたつようになってきていた。
基本的に「来る者拒まず、去る者は追わず」精神の俺は、この田舎の街ではちょっと悪目立ちしているようで、リザにだけは軽蔑されたくない…と、最近は告白してくる女の子たちには申し訳ないが「錬金術に専念したいから…」とお断りを入れるようにしている。

そうして、優しくて真面目な頼れるお兄さんを気取った俺と、大人しくて可愛い妹のようなリザは、食後に一緒に机を挟んで課題をしたりするようになっていった。


俺が15歳、リザが11歳になったころ、俺と師匠は言い争うことが多くなった。
原因は、俺の士官学校への進学について。軍人に対する俺と師匠の考えの相違が大元の原因である。

めったに大きな声を上げない師匠が、俺の士官学校進学を諦めさせようとする時、俺の反論を抑えるために大声を出されるのが、リザにも事が簡単ではないと理解させているようで、この件に関して、リザは一切口を挟むことはしなかった。

ある時、夕食後のひとときに、リザが課題の分からない所を教えて欲しいと俺を呼び止めた。
リザは錬金術師の娘の割に、理科や科学実験などが苦手だった…いや、錬金術の才を得られなかった錬金術師の娘としては当然なのかもしれない。基本的に優秀な娘だから、苦手意識が専攻して不得意になってしまった可能性が高い。

課題の答えに繋がるヒントを伝えると、すぐにリザは理解を示し、課題を解き始めたのを見守っていると、

「リザも来年からは中等学校か…。士官学校に入学したら、こうやって課題を見てあげることもできなくなるな…。」

と、不思議と感慨深さが湧いてきて、不用意なことを伝えてしまった。リザはおずおずと顔を上げて

「マスタングさんは、やっぱりうちを出て、士官学校へ進学をされるのですか?」

そう尋ねる。マズいことを言ってしまった…と思ったが後の祭りで、

「俺を女手一つで育ててくれた養母に早く楽をさせてあげたいし、錬金術をもっとも役立てられる国家錬金術師の資格も取りたい。
 何より、国家資格を持った錬金術師には研究費が支払われる上に、左官相当の地位が約束されている。
 高給取りになって生活が落ち着けば、養母の店の資金や師匠の研究費だって出してあげられるようになる。」

俺は正直に本音を話すしかないと思い伝えると、リザは思いつめた顔をして呟いた。

「父は軍も国家錬金術師も…認めていませんから、マスタングさんからの資金援助は受けないと思いますよ…。」

「リザ、俺は師匠のことを錬金術師としては尊敬している。でも、一人の父親としては…。
 ここ数年、本当に君にはお世話になりっぱなしだった。だから少しでもお返ししたい、と思ってるんだ。」

「お返しなんて…必要ありません。…そんなことより、ここで、一緒に…」

それ以上リザは何も言わず、ただ課題をすすめているだけだった。


結局俺は師匠を納得させることが出来ずに破門となり、師の家を出ていくことになった。

リザは健気にも、俺に心配をかけさせまいと、泣きたいのをこらえるようにしながら、俺を見送ってくれようとしていた。
俺もそんなリザを見続けるのは耐えられず、力いっぱい彼女を抱きしめた。

「手紙書くよ、休みの日には師匠にお許しをもらえるように会いに来るし、もし師匠が二度と会いに来るなと言っても、リザには会いに来るから…。頻繁に会いにこれない時は電話もするから…。傍に居てやれなくなってごめん…。」

そう告げると、リザも力いっぱい俺の背中にしがみつき、何度も何度も頷いてくれている。
少し腕の力を緩めて、リザの顔を覗き込むと、泣きながら必死に笑顔を作り「待ってますね。」と言ってくれた。

「何かあったら、いや何もなくても、いつでも俺に相談してくれ。一人で抱え込んだら駄目だぞ。」

と告げた後、彼女の額と瞼に口づけ、師の家を後にした。この時、俺は16歳、リザは11歳だった。